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  • 執筆者の写真秀夫 小針

原油相場は価格メカニズムが作用して上昇へ

更新日:2020年6月1日

2020/05/11


国際指標であるWTI原油がマイナス相場となった衝撃的な5月限の納会から3週間ほどが経過した。マーケットはようやく落ち着きを取り戻しつつあり、相場も徐々にではあるが、下値を切り上げる展開となっている。

この5月限は前日比でマイナス55.90ドル安の-37.63ドルとなり、原油を抱えた渡し方がお金を払わなければ原油を引き取ってもらえないという前代未聞の事態に陥った。WTI原油の現物の受け渡しをするオクラホマ州のクッシング在庫が満杯となり、渡し方過剰となったことが背景にある。

しかし、ここにきてそのクッシング在庫も増加に歯止めがかかってきた。4月15日時点の同在庫は5724万バレルと高い水準にあったが、翌週以降は、22日が4776万バレル、29日が3637万バレル、5月6日が2068万バレルと急激に減少している。

これに伴い、WTI原油の相場はほぼ平常な状態に戻ってきており、20ドルの心理的節目を突破してなお、堅調に推移、次の節目である30ドル、あるいは40ドルを目指す展開となりそうな雲行きである。参考までに、罫線上では38ドルから40ドル付近にテクニカルなギャップを形成しており、この窓埋めの動きとなる可能性がある。

今後の原油相場が楽観的にとらえられるのは、簡潔に言って、あまりに価格が異常な安値となったことで、価格メカニズムが作用して需給調整の方向に傾いたことに尽きる。通常では考えられない安値となった場合、その安値で買い付けに動く消費者が群がる一方、供給する側は、バナナのたたき売りのように損をしてまで売りたくないという状況となる。このため、それまでの需給緩和が急激に解消にむかっていると分析できる。

事実、今回の原油急落を受け、中国が緊急時の国家備蓄向けに原油を購入する計画を進めているとの情報をつかんでいる。中国政府は備蓄の拡大だけでなく、現在の安値水準での購入に向けたオプションなど金融手段の活用でさまざまな手法を使って安い原油を調達する動きを急にしている模様である。

中央政府は備蓄に動いているだけに限らず、各企業にも貯蔵するよう奨励、商業タンクも活用して原油調達に勤しむ行動だという。在庫目標は最大180日分(6カ月分)とのこと。BPの石油統計によると2018年時点の中国の石油消費量は日量1350万バレルなので、180日分に相当する原油在庫は24億バレルまで積み上げる計画であることを意味する。

一方、生産も抑制されるに違いない。石油輸出国機構(OPEC)とロシアは4月9日の時点で、5月と6月の原油生産量を日量1000万バレル減らすことで合意した。この数量は全供給量の10%ほどしかないことから、効果は限定的との見方が支配的だったが、そもそも、20ドル前後の原油価格では、サウジアラビアなど中東産油国を除き、ロシアなどは採算割れとなってしまう油井が多くを占めるため、必然的に生産が落ち込むことは避けられない。

そのうえ、米国の原油はシェールオイルであり、それ以上に採算コストは高く、最低でも40ドルに達しないことには極めて深刻な採算割れとなってしまう。実際、米シェールオイルの掘削企業の多くは経営難に陥っている模様で、採算割れから生産量を大幅に減らしている企業が少なくない。




 

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